2020/10/02
はじめに
前回、前々回は、南九州への修学旅行(知覧特攻記念館に行く=特攻隊)に関連づけてとりくんだ合唱
- 青葉の歌
- 名づけられた葉
を紹介しました。
今回は、8月6日に実施していた平和劇の中で歌った合唱を紹介します。
それは「木琴」です。
以前も書きましたが、もへちゃんが「先生をしている間に歌わせたいベスト3」
- 消えた八月
- 木琴
- 親知らず子知らず
の中の1曲です。
では、歌詞解説シリーズ第13弾、合唱曲「木琴」について書いた平和劇シナリオ「夜明け」(2012年8月6日上演)を紹介します。
木琴
平和劇「夜明け」シナリオ第6場とは
場面
異世界にある酒場「バー夜明け前」(大切なことをあきらめた人間が集まるバー、夢の中のようなもの)
登場人物
◯◯◯中学校平和集会実行委員長、女子中学生
平和劇を上演することを諦めている
福岡大空襲を生き延びたおばあちゃん
6.19平和学習(福岡大空襲)で小学生たちに体験を語ろうとしたが苦しくなって語れなかった
委員長の中学校の8.6平和集会に招かれている
ペンを置いた詩人
金井直に師事していた
歌手志望の青年
歌で世界を変えようと思っていたが全く売れず諦めている
ちなみに、当時『スギちゃん』が流行ってたので、トシちゃんの衣装も袖無しのGジャン
バー「夜明け前」のバーテン
この世のすべてを知っているという噂あり
平和劇「夜明け」第6場 バー「夜明け前」にて
小学生たちに、福岡大空襲での自分の経験を話せなかった鈴木芳子。
毎年6月になると、心が苦しくなって、何かを諦めた人間が集まる「バー夜明け前」に入り浸っている。
諦めた人間同士の気安さもあり、福岡大空襲のことをほんのちょっとだけ語るつもりだったのだが、話し始めると次から次に記憶があふれ出し…
私は、私は、あん時、空襲の始まった時、荷物ば取りに戻ったと。
家族には弟がついとるけん大丈夫って思ったとよ。
服の入った柳行李と木琴ば抱えて家を飛び出したら…
もうあたりは火の海やったと。
こんままやったら死ぬって思ったよ。
早く火の囲いから逃げ出さんとって必死やった。
両側は火の壁、降りかかる火の粉で髪はちりちり、瓦まで落ちてきたとよ。
いつのまにか手にしとった行李と木琴はなくなっとった。
焼夷弾は次から次に降ってくるとって。
本当に雨のごと降って来るとよ。
よけながら、やっとかっとで十五銀行にたどり着いたらね、
そしたら地面すれすれにあった地下室の窓から青か炎が吹き出しよった。
3階か4階の窓からは赤か火のごうごうと吹き出しよった。
母さん~
多美子~
声の枯れても、それでもみんなの名前を叫んだよ。
勝利~
重人~
政人~
そん時たい、
炎の中から火だるまになりながら、人が転がり出てきたとよ。
近くの警防団の人が炎ばたたき消してやりよんしゃった。
道の反対側やったし、その人な真っ黒やったけん、誰かわからんかった。
でも、「姉ちゃん!」そう聞こえた気がしたけん、いいや、そう聞こえたんよ。
本当に。
だけん駆けだしたと。
そん時…
(間)
焼夷弾が…
焼夷弾が勝利と政人に直撃したったい。
目の前で勝利は、頭が二つに割れて、心臓の見えよった。
まだ動きよったよ。
政人はどこにいったかもわからんごとなった。
(鈴木泣き崩れる)
鈴木さん。
だから鈴木さんは…。
この時期に心が苦しくなるんですね。
知らなかった。
しかし、さっきのお話の中のあの歌…
歌?
あぁ、ほら
「はやく街に赤や青や…」
黄色の電灯がつくといいな♪
それそれ。
それって私の師匠の作品に出てくるんですよ。
それは詩「木琴」のことですね。
詩人金井直が1948年に作った詩です。
彼は戦争で恋人を亡くし、生きることも詩を作ることもあきらめて、しばらくはここ、「バー夜明け前」に滞在していましたから、よ~く知ってます。
そういえばあの時、木琴を弾けなくなったという鈴木多美子さんも、うちのお客様でしたよ。
そこの席にず~っと座っておいででした。
多美子が、多美子がここにおったとですか。
はい、
その時はもうお亡くなりになってたのですが、身体が無くなって木琴を弾けなくなったことをとても悔やんでおられました。
その思いがここに来ることになったんでございましょうねぇ。
で、多美子は、多美子はどうなったとですか?
金井様とずっとお話をされておりました。
あの詩をご存じで?
いいえ
詩の中にこんなフレーズがございます。
妹よ
おまえが地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてから まもなく
町は明るくなったのだよ
はい、そのとおりでございます。
さすがでございますな。
金井様に
「星の中で木琴を鳴らせば、生き残ったお姉様、すなわち鈴木様でございますが、きっと思いが届く」
と教えてもらった多美子様は、うれしそうにここを出て行かれました。
多美子が?
うれしそうに?
はい、はい、はい、わかりますか(興奮した口調で)。
多美子様の胸に希望が芽生えたんです。
あなた様に願いを届ける方法があると。
金井様も、悲しみを忘れない為に詩を作るんだ。
二度とこんな戦争がくり返されないために詩を作るんだと胸を張って店を出ていかれました。
希望を見いだしたのです。
はっはっは~
ここにいる皆様、苦しみや悲しみで何もかも失ったとお思いでしょう。
でも違うんです。
どんなに失っても、必ず残っているんですよ。
何が?
まだおわかりじゃない?
これですよ、これ。はっはっは~
(背景の絵をやぶる。「希望」という文字が書かれた背景が出てくる)
夜明け前の闇は最も暗いんです。
人は力尽きて倒れてしまうかもしれない。
けれど暗黒の地面にはいつくばって、それでもあきらめずに一歩、もう二歩前へ進んだ時、その時こそ、かすかな光に気づき、そしてついには東の空を赤く染める夜明けを迎えることができるんです。
希望だ。
希望が必ず残っているんだ~。
私にも、私にもあるとですか?
多美子様の願いとは、生き残ったお姉様の幸せでした。
私たちの分まで幸せに生きて欲しいとおっしゃってました。
あなたにはお子さんもお孫さんもいらっしゃるじゃないですか。
その方たちにも伝わるように多美子様は今夜も星空で木琴を弾いていらっしゃいます。
あなたが昨日話しに行った小学校のお子さんたちにも、多美子様は幸せに生きて欲しいと木琴を弾かれています。
ほら耳をすましてみてください。
「木琴」ピアノ伴奏始まる
明転
芳子は夢から現実の世界へ戻っていく演技
第7場 ◯◯◯中学校平和集会 合唱の場面へ
木琴
作詞 金井直、作曲 岩河三郎
妹よ
今夜は雨が降っていて
おまえの木琴が聞けない
(中略)
暗い家の中でも おまえは木琴と一緒に歌っていたね
そしてよくこう言ったね
早く町に 赤や青や黄色の電灯がつくといいな
(後略)
歌詞全文および合唱動画は「もへちゃん先生の学級通信の資料置き場」へ
おわりに
平和劇「夜明け」の演出で、バーテンが背景を破ると「希望」がでで来るというのは、先生方にも、子どもたちにも、舞台会社の人たちにも驚かれました。
あのときは「へへへっ」と笑ってましたが、実はこれには元ネタがあったのです。
もへちゃんが先生になった3年目、文化祭の劇で中3生が作ったオリジナル劇「リャカの酒場」という劇でした。
演出・脚本担当のMくんの才能に驚きました。
「異世界の居酒屋」という設定もMくんの脚本にありました。
同窓会があったときに、Mくんと話す機会があり、オマージュ(尊敬して真似する・影響を受けて制作する)させてもらったことを伝えました。
もへちゃんと演劇の出会いは、Mくんの「リャカの酒場」と、その年の生徒会執行部が演じた「ほうせんか」(沖縄戦)です。
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