2020/11/12
はじめに

ジョブドラフトという会社のコマーシャルで

就活って言われてもやりたいことないし

違うよ、やりたいことを探す時間を就活というんだ
と言ってました。
高校生の就活を支援する会社のようですから、こんな内容になるでしょうが…
「就活って言われてもやりたいことないし」と言えるのは、あと数年
内閣府の高齢社会白書によると、日本の人口は、2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年には8674万人になると推計されているそうです。
「人口が減る」ということは「消費が低下する」ということであり、多くの企業が倒産する未来がすぐそこまで来てるってことです。
そうなると企業は、新卒者を数年かけて育てる余裕がなくなり、即戦力となる学生を求めるようになります。
文科省が「アクティブ・ラーニング」や「主体的・対話的で深い学び」を半ば強引に導入したのも、そんな将来を危惧している財界や経産省からの強い希望(圧力?)からです。
なので、高校3年生の今頃になって「就活って言われてもやりたいことない」と言えるのもあと数年かもしれません。

中学の時から、自らの進路を考え、なりたい仕事に向かって進んでいく。
そんな同級生の姿を伝えた通信「学級記録 No.71」(1996年11月29日発行)を紹介します。
「夢」を「目標」にするとは
◯◯ ◯◯様
1996年11月5日
金の星社
編集部 編集長 ◯◯◯ ◯◯
前略
お手紙ありがとうございました。
編集者になるためにはどうしたらよいか、というお問い合わせをいただきましたので、一般的なことをおこたえします。
編集者といっても…編集者の種類
編集者といっても、いろんな種類があります。
- 出版社の編集部で働いている人
- 編集プロダクション(企画・編集・製作などの会社)
- フリー編集者(自分1人で、出版社や編集プロダクションの編集を手伝う人)
などがあります。
また、正社員、契約社員、アルバイトというような違いがあります。
編集者になるには?
フリー編集者であれば、何の資格もいりませんし、電話とファックスがあれば、すぐにでもはじめられるのですが、編集の仕事を依頼されないとはじめられませんので、信用や実績が必要です。
ですから、フリー編集者の場合は、出版社や編集プロダクションにつとめて、編集者としての技能を身につけてから、退職して独立するのがふつうです。
1,2の場合は、社員の募集をしている会社の採用試験を受けて、合格すれば就職できます。
会社によって違いますが、一般に、とても競争率が高いので、かなり狭き門です。
こういう勉強をすれば、絶対に合格できるというものは、たぶんないでしょう。
社員の募集(公募)は、新聞の求人広告や、求人情報誌に掲載されています。
ふつう、大学・短大の卒業程度の学歴が条件になっているようです。
毎年、社員を採用する大規模な会社は、大学・短大の新卒予定者を募集します。
また、社員が退職して欠員が出たら、補充するために募集するということもあります。
この場合、毎年、採用があるわけではないですし、募集があったとしても、1名とか2名とかの少ない募集です。
大学・短大の新卒者だけでなく、転職者(編集経験者)を中途採用することもあります。
結局、社員を募集しているときであれば、就職の可能性がありますが、逆に募集していないときには、いくら優秀な人でも、無理だと思います。
また、公募はしないで、縁故のある人(社長の知り合いや作家の知り合いなど)を採用することもあります。
この場合は、公表されないので、くわしいことはわかりません。
ちなみに、金の星社の場合は、毎年、採用があるわけではありません。
欠員があったときに、新聞や求人情報誌に求人広告を掲載して、採用試験を行っています。
出版社
日本には、出版社が4500社~5000社くらいあるといわれています。
1000人以上の社員がいる大規模な出版社もありますが、社員が2、3人という出版社もあります。
10人以下の小規模な出版社は、全体の半分近くもあります。
中規模の出版社は、30人~50人くらいです。
また、書籍を出版している会社、雑誌を出版している会社という違いもあります。
専門出版社もあれば、何でも出版している総合出版社もあります。
出版物のジャンル(総記、哲学・宗教、歴史・地理、社会科学、自然科学、技術、産業、芸術、言語、文学、児童、学習参考など)もいろいろです。
金の星社は、児童書の出版社です。
出版社の編集部に就職したいという場合は、その出版社のことを調べて勉強したり、その出版社のおもな出版物を読んだりしたほうがよいでしょう。
種類や規模やジャンルはいろいろですが、編集者として働いている人は、おおぜいいるのですから、狭き門ですが、あきらめることはないと思います。
編集者を養成する専門学校もあります。
◯◯さんのお手紙を読んで、将来の目標をしっかり決めていらっしゃると思いましたので、大学生や大人の方にお話しするのと同じようにおこたえしました。
でも、今まで書いたことは、ちょっとむずかしかったかもしれません。
高校生や大学生・短大生になって考えてもいいと思います。
大学時代に出版社で、編集のアルバイトをやる人もいますが、卒業してから社員になれるかどうかは、いろいろなのでわかりません。
おすすめは『編集者になるには』(なるにはBooksシリーズ41)
まず、編集者はどんな仕事をするのかを知っておくとよいでしょう。
『編集者になるには』(なるにはBooksシリーズ41/ぺりかん社/植田康夫著)という本が参考になると思いますので、読んでみてください。
編集者になるために、今、どういう勉強をしたらいいですか?
さて、編集者になるために、今、どういう勉強をしたらよいかということについておこたえします。
◯◯さんは、中学3年生ですから、たぶん高校進学をめざしていることと思います。
まずは、学校の勉強をしっかりとやってください。
特に、国語(日本語)と英語は大事です。
国語は、すべての勉強の基本になると思います。
また、世の中はこれからますます国際化がすすみますから、英語は得意なほうがよいです。
たとえば、金の星社では、絵本や読み物の翻訳本も出版していますから、自分で翻訳するわけではないですが、やはり英語が得意だと役に立ちます。
外国から、英語のファックスが送られてくることも、よくあります。
ほかには、数学・社会・理科ももちろん大事です。
音楽、美術などの芸術科目も重要です。
編集者には、芸術的センス(感覚)も必要だからです。
こう書くと「なんだ、全部じゃないか」と思われることでしょう。
実はそうなのです。
得意な科目と不得意な科目が極端にかたよらないほうがいいのです。
編集者は、できるだけ広い知識が必要だからです。
そうはいっても、全部が得意という人は、めったにいないでしょうから、浅くてもいいから広い知識や教養を身につけるように努力してください。
その中で、特に得意な(好きな)科目をのばすようにしてください。
何でもいいですから、1つは得意な科目があると、自信を持てますし、きっと役に立ちます。
次に、本をたくさん読むことです。
◯◯さんは、本が好きと書いてありましたから、大丈夫だと思います。
できるだけいろいろなジャンルの本を読むのがよいでしょう。
また、好きな作家がいたら、その作家の作品を全部読むことにチャレンジしましょう。
それから、これが最も大切なことですが、心を豊かにするようにしてください。
そして、友だちを大切にしてください。
人を好きになることです。
人間はひとりひとりみんな少しずつ違いますが、だれにも、きっとよいところがあるはずです。
その人のよいところを好きになるように努力してください。
そうすれば、人からも好かれるようになります。
そして、自分自身も好きになってください。
編集の仕事では、豊かな人間関係をつくることがとても重要です。
また、遊んだり、映画を見たり、音楽を聴いたり、スポーツをしたり、恋をしたり、何にでも興味と関心を持つことです。
編集者には好奇心が不可欠です。
将来、企画を立てるときの役にも立つことでしょう。
自分の趣味を持つことも大切です。
趣味は、自分の好きなことだったら何でもいいのです。
それから、健康な丈夫な体をつくるように努力してください。
編集の仕事は、机にかじりついて椅子にすわっているだけではありません。
とても忙しく、動きまわっています。
重たい本を運ぶこともあります。
夜遅くまで仕事をすることも多いです。
健康な体をつくるためには、規則正しい生活、適度な食事・睡眠・運動を心がけてください。
特に、目は大切にしてください。
編集の仕事は、特に目を使うからです。(もし、視力が弱くても、眼鏡やコンタクトレンズを使えば、心配はありません)
それから、人間として生きていくための常識を身につけることです。
「常識」というと、なんだか形式的でかたくるしくて、つまらない感じがしますが、そういう意味ではありません。
たとえば、◯◯さんは、お手紙の中に、きちんと返信用の封筒と切手が入れてありました。(大人の人でも気がつかない人がおおぜいいます)
こういうことを常識というのです。
人間として成長していくこと
さて、編集者になるためいろいろ書きました。
これらのことは、あなた自身の能力や感覚をのばすだけでなく、あなた自身を今以上に魅力的な人間にしていくことでしょう。
将来、編集者ではなくて、別の目標を持つようになったとしても、必ず役に立つはずです。
これらのことは、編集者になるためだけではなく、社会人になるためにも必要なことだからです。
つまり、編集者としての技術を習得する以前に、人間として成長していくことが最も大切なことなのです。
もちろん、編集経験があってもよいですが、編集技術は、会社に入ってからでも勉強すれば間に合います。
大学・短大を卒業してすぐに入社した人は、ほとんど編集経験がありませんが、大丈夫なのですから。
きちんと書かれていたから
◯◯さんのお手紙は、文章も簡潔でとてもきちんと書かれてありましたので、私もがんばってこの手紙を書きました。
がんばりすぎて、長くなってしまいまして、すみませんでした。(こういう長い手紙は、相手に対して失礼になってしまいますよね)
目標に向かって、一生懸命努力すれば、いつかきっと夢はかなうと思います。
私はそう信じています。
がんばってくださいね。
それでは、お元気で。
草々
追伸
金の星社の目録を同封します。ご参考になれば幸いです。
夢は実現させるためにある。
おわりに

「編集者になるにはどうしたらいい?」と聞かれて、もへちゃんは何と答えたか
この手紙を書いた子が「編集者になるにはどうしたらいいですか?」とき、もへちゃんは何と答えたと思いますか?
このブログ「もへちゃん先生の学級通信」の隅々まで読んでくれているファンの方ならばわかるかも(笑)
数年前のもへちゃん組の子が「舞妓さんになるにはどうしたらいいですか?」と聞いた時と同じ返事をしました。↓
そんなこと知らんぞ
そうです。

そんなこと知らんぞ
です。
さらに続けて

でもアドバイスならできる。
君の一番好きな本の裏書きに書いてある出版社に「どうしたら編集者になれますか?」って電話するか手紙を書くといい。
以前、もへちゃん組の卒業生で、
「舞妓さんになりたいけどどうしたらいい?」
って聞いてきた子がいて、その時、
「京都府の観光課に電話して、『お茶屋さん』っていう舞妓さんが所属してるところの連絡先を聞いて、そこに電話して聞いたらいい。本当になりたいんだったら電話できるはずよね」
って言ったら、その子は実行して、その後たくさん苦労して、結局舞妓さんになった。
君も本気だったらできるはずよね。
あっ、お手紙を書くんなら、大人の書き方がいいぞ。
とアドバイスしました。
すごい◯◯さん、すごい編集長さん
◯◯さんはそれを実行するどころか、「返信用の封筒と切手を入れ」相手の方から感心されました。
きっと◯◯さんは一生懸命、手紙を書いたに違いありません。
よくがんばった(^^)/
けれど、◯◯さんもすごいのですが、返事をくださった金の星社の編集長さんはさらにすごいって思います。
一中学生からの手紙に対して、すごく魂を込めた返事をくださいました。
ありがたい(^o^)
◯◯さんは、この手紙をもらってますます編集者になりたいという思いを強くしました。
なお、手紙文の中の見出しは、ブログに書くにあたって、もへちゃんが勝手に書き込んだものです。
反省
もへちゃんは、
「先生になりたいけど、どうしたらいいですか?」
と聞かれて、こんなに魂を込めて答えられるだろうか…
う~ん…
「そんなこと知らんぞ」
と答えることだけは、しませんm(_ _)m
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